恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜
「……真琴……」
モザイク画に感動して敏感になっている真琴の心に、その声は沁み通っていく。真琴は涙を拭うことなく、声がした方に振り向いた。
古庄はその顔を見て少し目を見開いたが、涙の意味を理解すると、優しい微笑みをたたえた。
「この絵があんまりすごくて……。何度も文化祭は経験してるけど、これだけの大作は見たことありません」
「そう、大作だな……。ハプニングもあったけど、みんなよく頑張ったよ。あいつら……、疲れ果ててさっきの教室でひっくり返って寝てる」
古庄がそう言うのを聞いて、真琴はフッと笑いをもらしながら、手のひらで涙をぬぐった。
その仕草を見た古庄の喉元に、切ない痛みが通り過ぎる。唇を噛んでそれに耐えた後、自分の胸の中にある想いを真琴に告げるために、思い切って口を開いた。
「……この絵は、そこに桜を見上げる君が立って、完成するんだよ」
古庄の声色が変わったことに、真琴は気が付いて、黙ったままモザイク画から古庄へと視線を向けた。
「初めて君に出逢った時、君はそうやってこの桜を見上げていた……。あの時の光景が、ずっと俺の中にあって……」
そう話しながら、古庄も真琴を見つめ返す。