恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜
優しい視線に包まれて、うなずくだけでは足りないと、真琴は勇気を奮い起こす。自分の想いを伝えるのは得意ではないけれども、今、きちんと答えておかなければならない。
「……こんな私でよかったら、ずっとあなたの傍にいさせてください」
真琴の口からずっと聞きたかった言葉を聞いて、古庄の胸もいっぱいになる。瞳を閉じ、この上なく愛しく大切な存在をただ抱きしめた。
それから――、どのくらい時が過ぎ去ったのだろう。
気がついたら、少し靄のかかる中庭の真ん中で、真琴は古庄の胸に頬を付けて、校舎を覆うモザイク画を眺めていた。
早起きの小鳥たちのさえずりが、遠く聞こえる。そして、真琴の耳に響くのは、規則的で穏やかな古庄の鼓動。
この桜の下にたたずんでいた人――。初めて古庄を目にしたときの光景が、デジャヴのように真琴の中に甦ってくる。
今、その人の妻となって、その人の腕の中にいる……。真琴は、その夢のような現実を噛みしめた。
「……夜が明けたな……」
古庄が囁いたのと同時に、朝日が射し込んでモザイク画を照らし出した。光に照らされ、本来の色彩を現した絵のあまりの絢爛な様に、真琴は再び息を呑んだ。