恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜
「……9月なのに、見事な桜が咲きましたね」
「うん……」
二人はまたしばらく、圧倒的な迫力と心に沁み込む美しさを前に、言葉もなくただ見入っていた。
――ずっとこのまま、誰にも邪魔されない二人だけの時間が続けばいい……。
二人ともそう思っていたが、時は刻一刻と過ぎていく。もう少ししたら、文化祭の準備で早く登校してくる生徒たちも、姿を現すようになるだろう。
「さあ、今日からが文化祭の本番だ。眠ってないけど、君には今日も働いてもらわなきゃならない。頑張って今日を乗り越えよう!」
モザイク画から元気をもらったかのように、古庄が抱きしめていた真琴の背中をさすった。それを機に、真琴も自分を切り替える。
「それじゃ、まずは腹ごしらえしましょう。朝ごはん、生徒の分も何か買ってきます」
「いや、今度は俺が行くよ。……って、俺。財布も自転車の鍵も、職員室に置きっぱなしだった……」
オートロックが解除される朝の七時にならないと職員室には入れないし、徒歩でいける場所にはコンビニさえもない。
「私が行ってきます。古庄先生は、教室で生徒たちと休んでてください」