恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜




 古庄の断言したその声は、思いの外響き渡り、印刷室の外へと漏れたのだろう。人が増えてきた職員室の数人が、印刷室の方へと顔を向けた。古庄と真琴は二人して、肩をすくめて挨拶をするように頭を下げる。



 確かに1年前の今日、『1年待つ』と約束を交わしていた。
 それから1年間、つい昨日まで、お互い他の同僚と同様の態度で接し、全く普通の同僚として生活をしてきた。
 真琴はそんな忙しい毎日に紛れて、すっかり『その日』を忘れていたのだが、古庄は指折り数えて待ってくれていたということだ。


……それだけ、真剣に深く、真琴のことを求めてくれているということだ…。


 そこまで思い至って、真琴の鼓動が俄かに乱れてくる。優しく見つめられているだけなのに、抱き締められているような感覚になる。


「早くしないと、1時間目の準備をする時間が無くなるよ」


 声を潜めて、古庄はそう真琴へと畳み掛ける。


「早くしないと…って」


 確かに、時間は刻々と過ぎていっている。準備をせずに授業をするわけにはいかない。早くすることを済ませて、自分の仕事に取り掛からねばならない。




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