恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜
「古庄先生、すみません。こんなこと聞いたら、笑われるかもしれないんですけど」
『来た♪』と心の中で小躍りしながら、古庄は新聞から目をあげて、その眼差しを優しく和ませる。
「このロシアの川、なんて言う川でしたっけ?」
真琴が指を差す先を、古庄は頭を寄せて覗き込む。たったこれだけ、真琴に近づけただけでも、古庄の胸はドキドキと早く鼓動を打ち始める。
「これは、ドニエプル川だね。源流はロシアだけど、流域のほとんどはベラルーシやウクライナだよ」
「え!?ロシアの起源になる場所なのに、今はロシアじゃないんですか?」
こんなふうに、自分の言ったことに真琴が興味を持ってくれると、古庄はますますうれしくなって鼻息が荒くなる。
「私、いつもドニエプル川とヴォルガ川の区別がつかなくって」
「ヴォルガ川は、こっちだよ。ドニエプルは黒海、ヴォルガはカスピ海に注いでるんだ」
地理教師の本領発揮とばかりに、古庄は得意になって地図中を指差す。こんなことでもなければ真琴に近づけないので、このどさくさに紛れて、もっと頭を寄せた。
古庄はいつも、真琴から満開の桜のような匂いを感じ取る。すぐ側にいて触れ合えそうな真琴から、その匂いを胸いっぱいに吸い込んで、古庄はいっそうその鼓動を激しくさせた。