恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜
窮して唇を噛むのと同時に、真琴の頬に涙が伝う。
真琴が自分のこの反応に驚いた時、古庄はもっと衝撃を受けていた。息を呑んで、真琴を見つめる表情に動揺が浮かぶ。
古庄にそんな顔をさせてしまったことに、真琴はもっと申し訳ない気持ちになった。けれども、その気持ちさえも、うまく伝えられない。
もどかしさに、真琴の目にはもっと涙が溢れてくる。古庄もどうすればいいのか分からないのだろう。ただ黙って真琴を見つめている。
そうしている内に、三時間目が終わるチャイムが鳴った。ここにも生徒たちがやってくる。
真琴は手の甲で涙をぬぐいながら踵を返し、職員室への階段を駆け上った。古庄は、そんな真琴を追いかけることはせず、憂い顔のままゆっくりと階段を踏みしめた。
古庄は、戸惑っていた。こんなことになるなんて、想像さえしていなかった。
この一年間、ずっとこの日になるのを心待ちにしていた古庄は、かねてよりこの日を「結婚記念日」にしようと計画していた。
大したことは出来ないが、今晩はレストランで食事をして、甘い新婚初夜を過ごし、一緒に朝を迎えようと思っていた。そうすることを、真琴もきっと喜んでくれると、古庄は信じて疑わなかった。