恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜
それなのに、先ほどの真琴の様子では、どうもそれは無理らしい。予約していたレストランも、キャンセルしなければならない。
嫌ではないのに、どうして泣くのだろう……?
――……想いは通じ合っているはずだ……。
この一年間を思い返してみて、古庄はそう確信する。
一年前のあの夜、真琴は古庄の背中に腕を回し、ギュッと抱き締め返してくれた。それから、『もう逃げたりしない』と、古庄を見上げて笑ってくれた。
あの時の真琴を思い出す度に、古庄の心はキュンと切なく痺れる。その痺れに捕らわれると、一時心身の動きが取れなくなる。胸を押さえ、階段の踊り場の壁に手をついて、甘い痛みに耐えた。
「おうっ!!古庄ちゃん、大丈夫か?熱中症か?!」
階段を一段ぬかしで上がってきたラグビー部の堀江という生徒が、そう言って古庄の背中を叩いた。
「ああ…、何でもない。大丈夫だ」
古庄は薄い笑顔を作ると、ため息を吐いた。
まずはきちんと、真琴と話をしなければならない――。そう思い直して、階段を一段ずつ踏みしめた。
いざ話をするといっても、今までのように職員室の中で気軽にできる話ではない。朝のように、ちょっと印刷室で……というわけにもいかない。