恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜
「ああ、それは……」
古庄は平沢に目を置きながら、視界の端で隣に座っている真琴を捉えた。
二時間目は、婚姻届を出してきた直後で、真琴と結婚できた嬉しさで浮かれていたのだ。
「うん、いいことがあったんだ。すごくね」
そう言いながら、古庄は微笑する。しかし、真琴を想って浮かべた笑みは、平沢にとってはとても罪作りな表情だった。
途端に平沢の目つきに熱が帯びてくる。
「すごいイイことって、どんなことですか?聞きたい~♡」
この甘い声に、真琴が振り返って声の主を確かめる。
その表情が、出会った頃に真琴がよく見せていた仏頂面だったことに、古庄は敏感に反応した。
「いや、それはまた今度ね。ちょっと今は仕事があるから」
と、古庄は机へと向き直ってぎこちなく座り、用もないのに地理の教授用資料を本立てから取り出した。
平沢はそんな古庄を残念そうに見下ろし、肩をすくめてその場を去った。
古庄はゴクリとツバを飲み下して、真琴の様子をうかがう。この反応はもうすでに、怖い奥さんの尻に敷かれているダンナみたいだ。
真琴は古庄の方へは見向きもせず、クラスの一括徴収金のチェックをしている。その真琴に、古庄はメモを走り書きして渡した。
『今後のことをちゃんと話し合おう。今夜は空いてる?』