恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜
谷口も石井も男並みに働いて、自分の力で生活し、充実した毎日を送っている女性だ。今の生活を変えてまで結婚する必要を感じない場合、結婚に踏み切ることはまずないだろう。
――……結婚……。
真琴の意識が、その言葉に過敏に反応した。
仕事のことやこれからの生活のことなど、何も考えることもなく、誰にも相談することもなく、真琴はすでに結婚してしまった。古庄の妻になった実感などまるで湧かないが、それは現実に違いない。
――私はもう、戸籍上は「古庄真琴」なんだ……。
職場ではこの結婚のことは口外しないように言われているので、もちろん「賀川真琴」という通称を使うことになっている。
今、楽しく会話しているこの仲間たちにも言えない秘密を抱えて、真琴は息苦しくなった。
いっそのこと、目の前にいる仲間たちにこの事実を打ち明けてしまおうか…という衝動が、真琴の中に起こってくる。
そうすれば、聡明な同僚たちが、今自分の中に渦巻いている悩みのような心情を解明し、整理してくれるかもしれない。
いつも親身になって心配事の相談に乗ってくれる彼女たちならば、秘密も守ってくれるだろう…。