恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜
いっそのこと、本当に“ただの同僚”だったら、どんなにいいかと思う。そうだったら、ありったけの誠意を注いで、全身全霊で真琴を口説き落として、明日からでも恋人同士になれる。だけど、〝約束の一年間〟に、古庄は想像以上に苦しめられていた。
校門脇の、絢爛に咲き誇るしだれ桜の下にたたずむ真琴――。
あの春の日、真琴に出会った瞬間、古庄は雷に打たれたように恋に落ちた。それから、古庄の真ん中にいるのは彼女になり、彼女が古庄のすべてになった。
理由なんて、ほとんどない。真琴について、なにもかもを知らないのに、真琴のなにもかもを無条件に好きになっていた。
「寸分の隙もなく目が覚めるような超イケメン」
「この世のものとは思えないほど完璧なイイ男」
そんなふうに言われ続け、行く場所ではことごとく女子の視線をさらい、常に多くの女子から想いをかけられてしまう古庄。付き合った女性は自分でも分からないくらいいたが、本気で愛し合えないことにいつしか虚しさを感じ始め、〝彼女〟を作らなくなったのは、もう六、七年も前のことだ。
そんな古庄が、生まれて初めて落ちた“本気の恋”だった。