恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜
「そうなんですか……よかった……。実はちょっと気になってたんです」
と、理子のホッとした声を聞くことはできたが、嘘をついてしまった真琴の良心は著しく苛まれた。
心の中の目を閉じて、「ごめんね」と理子に詫びる。
「賀川先生より、気をつけなきゃいけないのは、平沢先生じゃない?」
と、しばらく黙ってスズキを食べていた石井が、食べ終えて口を開く。
「ああ、9月から来てる産休代替の?あの色気で押しまくってるよね~」
「そうそう、人目をはばからず、職員室でよくあれだけ露骨に迫れると思けど」
平沢のような、男に媚びを売る感じのタイプは、女からは煙たがられるようだ。中山の言葉には、ちょっとトゲがあった。
「ま、古庄先生は、あんなタイプにコロッと行っちゃわないとは思うけど、気をつけるに越したことないからね」
石井は微笑みながら、理子にそうアドバイスした。
「…き、気をつけるって、どうすればいいんでしょう…?」
純粋培養の理子にとっては、恋の駆け引きも未知の領域らしい。お姉さま方に、さらなるアドバイスを求めてくる。
「うん、でもね、一宮ちゃん。他の誰が古庄先生を好きかは、どうでもいいことなのよ。両想いになるためには、古庄先生に想ってもらわなきゃいけないわけ。それが一番難しいことなのよ」