恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜



 普段は女性の方から言い寄られる古庄の、初めての自分からのアプローチはなかなかうまくいかなかった。思慮深い真琴には、完璧な古庄の容貌も通用しなかった。しかし却って、自分を外見だけで判断しないそんな真琴のことを、古庄はもっと好きになった。


「君が、好きだ!」
「すべてを捧げていいと思えるのは、君だけだ」


 抑えることのできない想いを、古庄はなんども言葉にして真琴に伝えた。思い余って、真琴にキスまでした。……けれども、その度に真琴は古庄を拒絶した。

 真琴が彼を受け入れてくれなかったのには、理由があった。


 皮肉なことに、古庄が真琴に出会った時すでに、古庄には婚約者がいた。教員仲間で行われた大学の同窓会で紹介された相手。才色兼備で、結婚するには申し分のない人だったけれども、古庄は一度も特別な感情などを抱いたこともなかった。

 彼女は作ってこなかった古庄だが、ずっと独り身でいようとも思っておらず、家の事情もあってそのうち結婚はするつもりでいた。
 女性に対して、延いては結婚に対してなんの希望も抱けないまま、「人生はこんなもの」とばかりに、流されるまま成り行きで結婚することになっていた。


 しかも、なんの運命のいたずらだろうか。古庄がずっと打ち明けられなかったこの事実は、真琴が新婦から結婚式の招待状を受け取って明らかになった。こともあろうに、古庄の結婚相手は、真琴の前任校での同僚で、真琴が姉のように慕う親友の静香だった。
 

< 5 / 122 >

この作品をシェア

pagetop