恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜
そんなに優しい目で見つめられると、真琴は胸が締め付けられて、どう応えていいのか分からなくなる。
真琴が唇だけでぎこちない笑顔を作ると、古庄は安心したように前を向き、二人で並んで歩き始めた。
ただの同僚だった時も、こんな風に街を歩いたことなど、ほとんどない。
二人にとって、こうやって校内を巡視することでさえ、初めてのデートをしているみたいだった。
一通り校舎を回って、最後の管理棟に差し掛かった時には、すでに人影は見当たらず、そこは暗くひっそりと静まり返っていた。
この管理棟には一般教室はないので、もともと放課後に生徒の姿を見ることは少ない。図書室や保健室も明かりが消え、人の気配はまるでなかった。
懐中電灯の明かりと前庭の照明が射し込む一階の廊下を歩いている時、古庄が口を開いた。
「明日の夜、時間取れるかな?レストランでも予約して、食事に行こう」
それを聞いた真琴が、困ったように顔を曇らせる。
「明日は金曜日ですよね?金曜日の夜は、2年部の先生達で平沢先生の歓迎会をするはずですけど」
「……えっ?!そうだったっけ……?」
古庄としては、そんなことよりも二人きりの夜を過ごしたいところだったが、二人そろって歓迎会をすっぽかすわけにもいかないし、何よりも律儀な真琴は嘘をついて欠席などしてくれないだろう。