恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜
真琴に声をかけられて、平沢の作り笑いをしていた顔が、ホッと緩むのが分かった。
真琴が平沢と学年主任の間に割って入ると、学年主任はテーブルの方へと向きを変え、大皿から自分の皿へと料理を取り分けて食べ始めた。
「ビールじゃなかったら、何か他の飲み物を頼んでも…」
「いえ、ビールで大丈夫です」
真琴の気遣いを受けて、平沢は握りしめていたグラスを差し出す。
グラスにビールを注ぎながら、真琴の目が釘付けになったのは、その爪。プロでないとできないような凝ったネイルアートに、思わず真琴は見入ってしまった。
平沢は注がれたビールを、間髪入れずに飲み干した。その飲みっぷりは、けっこうイケる口みたいだ。
グラスを置いた平沢に、早速真琴が話しかける。
「すごく綺麗な爪ね」
「ああ、ネイルアートですか?お店で働いてる友達がいて、やってもらうんです。この9月から学校で働くようになったから、地味目の感じに変えてもらいました」
真琴の目には、到底「地味目」には映らなかったが、平沢が爪の先まで気を抜いていないことは伝わってきた。
今まであまり関わりを持つ機会もなく、平沢とは初めて間近で話をする。
側に寄ると、ムスク系の官能的な香りがする。切れ長の色っぽい目にはくっきりとしたアイラインが引かれ、見事にカールされたまつ毛にはしっかりとマスカラが施されていた。