恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜



 空いている平沢のグラスに、真琴が再びビールを差し出すと、平沢はグラスの下に手を添えてお酌をしてもらい、クイっと飲み干す。
 口元を軽くハンカチで押さえてから、平沢は身を乗り出して、真琴に近づいてきた。


「あの、ちょっと訊いてみるんですが、古庄先生って彼女いるんですか?」


――……来た……!!


 心の中で真琴は、思わず天を仰いだ。

 古庄と働き始めてから1年半の間に、何度この質問をされたことだろう。生徒からは年中されるし、年度替わりの時期は新しく赴任してき同性の同僚から繰り返される質問だ。

 この質問が真琴に集中するのは、古庄と親しげに話をする女性職員は真琴ぐらいで、それでいて付き合っている風ではないことを、女性たちは敏感に感じ取っているからだった。


「うーん…。いろんな人からモテてるみたいだけど、彼女はいないんじゃないかな?」


 真琴がこう言うのは、先週の女子会で得た情報が元になっていて、もちろんいろんな人の中には、当の平沢も含まれている。


 それに、「彼女」どころか自分と結婚してしまっていることを隠して、こんな風にトボけて嘘をつかねばならないことに、真琴の胸がチクンと痛んだ。


「えっ!?いろんな人からモテてるのに?古庄先生って、けっこう手ごわいんですね」


「……手ごわい?」

 
 
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