恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜
平沢の物言いを、真琴は無意識に反復する。
恋愛に関して疎い真琴には、平沢の言っていることの意味さえ解らなかった。
「どんな風に誘惑したら、古庄先生は落ちるんでしょうね。研究しなきゃ!」
真琴はこれを聞いて、グッと息を呑みこんだ。この言葉の意味を考えると、真琴の胸はドキドキと鼓動を打ち始め、赤面してしまった。
もしかして、今までの平沢の行為は、「誘惑」のうちに入っていなかったのだろうか。これからどんな風に古庄を誘惑しようというのだろうか。
そしてこの言葉は、平沢が今までそうやって「誘惑」をして、男性を落としてきたということを物語っている。きっとフェロモンたっぷりの彼女の手にかかって、落ちない男性はいなかったのだろう。それは彼女の口ぶりからも窺えた。
古庄は真琴のことを想ってくれているらしい。
それは一瞬だったけれども、昨夜、管理棟の暗い廊下で抱きしめられたことからも、間違いない…。
真琴の中にその時の感覚が甦ってきて、胸がキュンと絞られた。
何よりも、好きではない相手との結婚を、あんなに急いだりしないだろう。
真琴は古庄を「落とした」ことになるのだろうか?
真琴は、平沢やその他の女性たちのように、古庄に対して誘惑したり恋の駆け引きをした覚えはない。しようと思っても、どうやってそういうことをしたらいいのかさえも分からない。