恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜
盗み聞きするつもりはないが、真琴の耳は向かいに座る古庄と平沢の話に傾いてしまう。
と言っても、話をしているのは平沢ばかりで、古庄はそれをたまに相づちを打ちながら聞いているだけだ。
平沢は自分のことを知ってもらおうと一生懸命なのだろう。自分の身の上話を、呂律の回らない口で寸暇を惜しんで続けている。
時折、古庄が「困ったな…」という感じの視線を真琴に投げかけてきていたが、真琴も口を挟むこともできず、黙って二人のことを見守るしかなかった。
その時、古庄を挟んで平沢と反対側に座っていた戸部の携帯電話が鳴り、戸部は席を立った。
古庄は空いたスペースに体をずらして、平沢から少し離れようとした。しかし、古庄の隣という貴重な場所に、すかさず滑り込んで来たのは理子だった。
理子のあまりの素早さに、真琴は息を呑んだ。その抜かりなさには石井も驚いたらしく、そっと真琴に耳打ちする。
「一宮ちゃんもけっこう頑張るよね。これから古庄くんを巡ってのバトルが始まるよ」
笑いを含む石井の口調は、ありありと面白がっていた。真琴は面白がるどころか、古庄がそんな見せ物の一部にされていることに、悲しくなってくる。
平沢と理子とが古庄を挟んで、それぞれが彼の気を引こうと躍起になっているのを目の当たりにして、真琴は身につまされるような思いだった。