恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜
「…それは、お気の毒だったね…」
古庄は相づちを打ち、理子に作ってもらった水割りを一口含み、グラスを掲げてその濃さを確かめる。
平沢は古庄が反応を示してくれたことに、気を良くしたらしい。
「お祖父ちゃんが亡くなって少ししてから、今度は母が病気で倒れて、あたしは看病に追われることになりました……」
「お母様は何のご病気だったのですか?」
平沢の話が少し嘘くさいと感じた理子が、口を挟む。平沢はチラリと理子を一瞥したが、古庄の方を見て続けた。
「母は子宮がんだったんですが、発見が早かったから、手術をして何とかがんの方は落ち着いています」
「よかったね…」
と言って、古庄はもう一度水割りを口にしようとしたが、グラスの代わりに水差しを手に取り、自分のグラスに注いだ。
「母の闘病中は看病はもちろん、あたしがすべて家のことや父の食事のことなどしなければならなくなって、本当に忙しい毎日でした。…だから、その時お付き合いしていた人と全然会えなくなって……」
酔っぱらっているからか、平沢の話がまた違う方向に行き始めたので、古庄も理子も黙って様子をうかがう。
向かいにいる真琴も石井も、話の成り行きにじっと耳を澄ませるしかない。
平沢は膝に置いていたハンカチを、スッと鼻へと押しあてた。