恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜
一年後の朝
朝早い9月の職員室は、独特の爽やかさが感じられる。
日中の喧騒が嘘のような静けさと、澄んだ空気の中。
そこには、この世のものとは思えないほどの存在がある。
――それが、真琴の愛しい人だ。
「ちょっと、こっちに来てくれる?」
真琴は出勤するなり、その愛しい存在、古庄から声をかけられた。
いつもかなり早く出勤する古庄は、もう一仕事終えたところらしく、いつものように「日本経済新聞」を広げている。
毎朝お弁当を作っている真琴は、古庄のような余裕はないのだが、この日は朝のうちにしなければならないことがあって、幾分早い出勤だった。
窓から入ってくる朝のひんやりした風を感じながら、まだ人もまばらな静かな職員室の中を、古庄は隣接する印刷室の方へと向かい始めた。
一緒に働き始めて、もうすぐ1年と半年が過ぎる。
昨年度と同様、学年も分掌(学校内の係分担)も、当然教科も、全部一緒の真琴と古庄だったので、お互いが今何の仕事をしているのかは大体把握していた。