恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜
 


 ただ、一緒に歩いているだけなのに、真琴の胸は少しずつ苦しくなってくる。すぐ横を歩く古庄から醸されるオーラのような、空気を伝ってくるエネルギーのようなものを感じて。

 出会ったばかりの頃はこの息苦しさが嫌で、古庄を避けてばかりいた。でも、彼に恋するがゆえの苦しさだと気づいてから、この苦しさも自分の一部になった。

 触れ合っているわけでもなく、視線を合わせて微笑みを交わしているわけでもないのに、こうやって傍にいて彼の息吹きを感じられるだけで、何をしていても真琴の心は彼でいっぱいになる。

 そんな想いを込めて、真琴が古庄を見上げると、古庄は自分がそんな特別な存在だとは自覚することなく、眉を動かして見つめ返してくれる。
 そして、彼自身が満たされたように、微笑んでくれた。



 しかし、モザイク画の惨状を目の当たりにすると、古庄の優しい微笑みの余韻も真琴の中の甘い感覚も、全て吹き飛んでしまった。


 モザイク画は、縦八m横十五mほどのもので、短冊状の紙を数千枚つなぎ合わされて出来上がっている。
 その短冊には1cm四方のマス目があり、そのマス目は赤青黄黒白の5色で塗り分けられている。この色の塗り分け作業は、全校生徒千人以上を総動員して行われた。



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