あなたには見えますか…………
帰ればよかったんだ。



完全に辺りが暗くなる前に、引き返せば

よかったんだ。



「少し見るだけなら……見たら……すぐに

帰ればいい……

それに……また大切な者が、危険に関わる

のを……解決したいから……ここまで来た

んだから……

きっとあそこに何かがあるんだ……」



俺は、自分に言い聞かせながら、じわり

じわりと足を前に進めて行った。



声の鳴っていた屋敷の手前まで来ると、

その敷地の広さもさることながら、周り

の屋敷とはまた違う老朽を感じる。



家屋の外壁は色褪せ、ツタが四方に這い

上がり、庭にある大きな扉は開け放たれ

ている。



玄関の扉も倒れ落ち、屋敷内に暗く繋が

る廊下も確認出来る。



何より一番気味が悪く感じるのは、無数

の子供の玩具が玄関先や庭などに、無造

作に点在していることだった……



木で作られた人形や、独楽等に混じり、

髪飾り等や飲み物の器なども見ることが

出来る。



さっきの手鞠もここから、風に運ばれ転

がって来たのだろう……



俺は、震える体に力を入れ、さっきの手

鞠を元に帰しに、更に近くまで歩み寄っ

ていた。




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