あなたには見えますか…………
俺は、おそるおそる押し入れに目を向け

たが、扉は開いておらず、あの助けを呼

ぶ声も今は聞こえはいなかったんだ。



昨夜の暗闇では分からなかった事が、明

るさを取り戻した世界で確認することも

出来てきた。



居間には、暗闇の中で見たよりも広く感

じ、玄関で見た玩具よりも、たくさんの

古びた供え物類が並んでいる。

この場所で少女が亡くなったのだと、理

解するには充分だったんだ。



「早くここから出なきゃ……

でも脚が……動かないや……」



俺は、立ち上がることも出来ず、痛めた

足を畳に引きずりながら、押し入れの前

から徐々に離れて行った。



朝の日差しにより、恐怖心は多少の緩和

があったものの、早くこんな場所から逃

げたい気持ちは変わらない。



俺は、芋虫のように体を動かしながら、

昨夜歩いてきた廊下をじわりじわりと進

んで行ったんだ。



移動中も、少女に会わないかと不安にな

り、目を少しだけ開いては振り返りなが

ら……


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