ミクロコスモス
商人Ⅰ
~商人Ⅰ~
ざわざわとした人のざわめきが辺りを覆っている。
慣れ親しんだ、明るいざわめき。
「美味しそうですね」
美しい、紅い紅い果物を見て、ふらりと俺の店に立ち寄った娘は言った。
「よく熟れていて、紅くて美しくて・・・」
歌うように、軽やかな口調で。
そっと、美しい紅い紅い果実を手に取った。
林檎によく似た、けれど中身までも紅く、果汁がたっぷりと入っている果実。
―――ドキリ、と、心臓が音を立てたが、俺はそ知らぬフリをした。
この娘がもし、この果実を買うのなら・・・・・・この娘は――
心の中で首を振る。
分かっていたことだろう?
覚悟はしていた。
もう、逃げ道などない。