ミクロコスモス
「私、鼻がいいんですよ」


娘は淡々と言い、紅い果実を自らの鼻に近づける。




その、どこか優雅にさえ感じられる仕草に、目が離せなかった。


たらりと背中を伝う冷や汗に、もう俺は気付いている。



心臓が更に早鐘を打つ。





「・・・安くできるはず、ないんです。」



全て承知しているというような口調で娘は呟く。





すぅっと目を細めて果実を見つめる。


最初に褒めちぎった時とその視線は微妙に変わっているように見えた。




美しさに対する純粋な尊敬がこもった、うっとりとした恋するような眼差し。


だけどそこには、哀れみと切なさもこもっているような気がした。




気のせいかも、しれないが。







「美しい薔薇に棘があるのは、仕方の無いこと。

自らを守る術は持っていたほうがよいもの。


・・・だけど。」







< 32 / 53 >

この作品をシェア

pagetop