年下オトコたちの誘惑【完】
「杏ちゃん、杏ちゃん。そんな難しいお顔しないで?」
「眞一郎…。わたし、そんな顔してる?」

難しい顔って、眞一郎は言ったけど眉間にシワでも、寄せてたかな…。

「うん。可愛いお顔が、台無しだよ?あのね、杏ちゃん。そんな難しく考えないで?楽しく仕事すればいいんだよ!」
「楽しくって…」

そんなこと言われてもなぁ…。楽しく仕事、かぁ。

「杏は、前の仕事どうだった?楽しく出来てたか?」
「前の仕事…?」

尚樹に聞かれ、前の仕事のことを思い出した。

「仕事自体は、そんなにたいして楽しくはなかったかなぁ。電話受けたり、かけたり、お客様案内したり、お茶出したり。あとはずっと、パソコンだったし。でも…」

そこまで言って、言葉に詰まった。

「“でも”なに?」
「う、ううん。なんでもない。ごめん、忘れて」

わたしはすぐに、両手を顔の前で振って話を逸らそうとした。

「えぇ?気になるやんかー‼︎」
「ううん、ほんと‼︎なんでもないの‼︎ごめんね?」

楓だけじゃなく、他の三人の視線も感じたけど、わたしはそれに気付かないフリをした。

「じゃぁ、どうしてアンコは。そんな楽しくもない仕事してたんだよ」
「え」

突っ込んでほしくないところを、碧都に突っ込まれて、わたしは『え』と言ったまま口が塞がらなかった。

「だってずっと、そういう仕事してきたんだろ?何か魅力がなきゃ、できねぇだろ。同じ仕事なんて」

確かにそうかもしれない。でも、果たして“楽しい”と思って仕事してる人が世の中、どれくらいいるのだろうか。

少なくとも、わたしは仕事が“楽しい”と思ったことはない。

だってわたしが“楽しい”と思ってたのは、違う理由があったから。
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