彼氏人形(ホラー)
「俺のスイッチを切ろうとしたくせに?」


蒼太はそう言いながらベッドを下りて近づいてくる。


「それは……! 蒼太があたしに暴力をふるうからでしょ!?」


足がガタガタと震え、立っているのがやっとだ。


背の高い蒼太から見下ろされると、威圧感が体中を支配して動けなくなる。


ドクドクと心臓が爆発しそうなほど脈打っているのがわかった。


「陽子、今日言ったよね? スイッチを切るのは人殺しと同じだって。それを暴力で拒んで、なにが悪いの?」


「だって、蒼太は……!!」


言いかけた言葉を喉の奥に押し込んで、飲み込んだ。


『人形じゃない!!』


本当は、そう言いたかった。


でもその言葉が出てくる直前、骨を折られた実紗の顔が浮かんだんだ。


この言葉を言ってしまえば、あたしも同じ目にあうかもしれない。


そう思うと、どうしても言葉にすることができなかった。


「……なんでもない……」


あたしはうなだれて、そう言ったのだった。
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