彼氏人形(ホラー)
☆☆☆

翌日、あたしは蒼太の顔を見ていたくなくて早めに家を出た。


蒼太は昨日の出来事なんてすっかり忘れてしまったように、朝からニコニコとほほ笑んでいた。


結局、昨日はあたしが折れて一緒のベッドで眠ったから、よけに上機嫌だったのだと思う。


でも、いくら蒼太の機嫌がよくてもこのままじゃいけない。


暴力と優しさを交互に使いわけることで、どんどん悪い方へハマって行ってしまうかもしれない。


女性向けの雑誌でよく見かけるパートナーからの暴力の記事を、あたしは覚えていた。


殴られても蹴られても、次には優しくなるから殴られた自分が悪かったのだと錯覚してしまう。


それが悪化していくと、周囲に助けを求めることもできなくなり、自分からパートナーの元へと帰っていくようになる。


あの記事を読んだとき、それは一種の洗脳と同じだと、あたしは思った。


それと同じことが自分の身に起こるなんて考えてもいなかったけれど、今まさに被害にあっている状態なのだと感じていた。
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