一番欲しいプレゼント【短編】
 本当なら無視して家に帰ってしまいたい。

 でも帰れない。

 彼の術中にはまっているのかもしれない。

 そのとき教室の扉が開いた。

 教室に入ってきたのは寛だった。彼は走ってきたのか息を切らしている。

「待っていてくれたんだ。サンキュー」

 彼は自分の席に戻ると、鞄に自分の荷物を詰めだした。

 いつもと変わらない彼。

 どうせあたしにはもう見込みがない。

 いっそのことはっきりさせたほうがいいのではないだろうか。

 寛があたしの目の前に立つ。彼はあたしと目が合うと、笑みを浮かべた。

 優しい、屈託のない、あたしの大好きな彼の笑顔。

「帰ろうか」

 あたしは頷くと、席を立った。
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