あの日あの時...あの場所で
「豪...帰りたい」
お姫様がキングから顔を背けて狼王の首に抱きついた。
「...ああ、帰ろう」
狼王は優しく彼女の後頭部を撫でると足早に歩き出した。
キングは下唇を噛み締めてそれを見送るだけ。
「さあ、我々もいきましょう」
乾が呆然と立ち尽くしていた女の子二人に声をかける。
「そうね、桃子行こう」
綺麗な子がお姫様を不安げに見つめる大人しい子に声をかける。
「あ...うん..」
お姫様へと心配そうな表情を向けならが狼王の後を追いかけるこの子達はきっとお姫様の友達なんだろうね。
キッと鋭い乾の視線が一瞬だけこちらを向く、だけどそれは直ぐに逸らされ、奴は狼王を追っていった。
「小西、この女はアホ過ぎやな?」
ニヤリと口角を上げて俺に耳打ちした甲斐の目は勝ち誇った様な笑みを浮かべる美夜に向かっていて。
「ああ。そこは同意見だよ」
ほんと、この女アホだから。
「まぁ、せいぜい苦労しいや?ほな」
ひらりと手を振って、狼王を追いかけていった。
流れる気味の悪い静けさ。
こちらを見ていたギャラリーでさえ、騒ぎ立てはしない。
なのに...こいつ、本当に抹消したい。
「私がさっき言ってた美少女って彼女よ。狼王のお姫様だったなんてね。凄くお似合いだよね」
フフフ..羨ましいなんて言ってる。
キングに対しての牽制のつもりかよ?
狼王のモノだから手を出すなって。
こいつ、本当に何様なの?
「...うぜぇ、離せ」
キングの聞いた事もないぐらい低くて高圧的な声。
「...っ..ど、どうした..の?」
美夜、震えながら声を出してるけど、もう終わりだよ。
キングの顔が能面の様に無表情になった時点で、お前を拒絶した事を知らなきゃ。
「...離せ」
美夜の絡み付く腕を乱暴に振り払うキング。
「...っ..」
美夜は向けられた視線の冷たさに息を飲んだ。
お前はキングの地雷を踏んだみたいだね?
俺はほくそ笑む。
良い気味だ。
嫉妬に駆られて自爆した自分を恨めばいい。