あの日あの時...あの場所で
変わる日常







あの後、どうやって帰ってきたのか分からない。

気が付いたら自室のベッドの上に座り込んでた。


着の身着のままで、部屋の中はすっかり暗くなってた。


窓から差し込むのは月の光に、何となく視線を向けた。


桃子や梅と待ち合わせた駅で別れ言って迎えの車で帰ってと思う。


柊に会ってからの記憶が曖昧なんだ。


誰も何も聞かなかった。

私はその優しさに漬け込んで何も言わなかった。


ううん、言わなかったんじゃなくて、言えなかったんだ。


私自身とても混乱していて、上手く頭が回転してくれなかった。


だって、二度と会う事はないと思っていた。

それがあんな場所で、あんな風に再会してしまうだなんて。


運命は皮肉だね?


忘れた過去だと閉じ込めていた記憶は、彼を見た事で瞬時に解き放たれた。

沸き上がってきた切ない感情に胸が締め付けられた。



『瑠樹』と彼の声が私の名前を紡いだ。

今でも耳に残ってる。


久し振りに聞いた彼の声は、苦しくて切なくて悲しかった。


嬉しいはずなのに泣きそうになった。


三年前はあの声で何度も呼ばれたいと思っていたはずなのに...。


三年の月日は色々な物を変えたのだと感じた。


豪に抱っこされてなかったら、私はその場に居られなかったと思う。



三年前より随分と大人になった柊の瞳に自分が写ってる事が信じられなかった。


二人で見つめ合った事で、周囲の視線は何も感じなくなった。


そこに、私達だけが存在しているかの様な錯覚に陥った私は愚かだ。


再会したからと言って何も変わらないのに。


三年前彼が消えた事は.....何も変わらない。



会いたくなかった....会いたかった。


両極端の思いがせめぎあう。



「...ふっ、何を考えてるのよ、私ってば」

彼にはあんなに親しくしてる彼女が居たじゃない。

それが現実。

柊の腕に抱きついて微笑んだ彼女の顔が思い浮かぶ。

漏れ出た苦笑いは静かに消える。


西のキングの正体が柊だったなんてね?


豪に言われた通りに大人しく後ろに隠れていたら、こんな再会しなくて済んだのにね。


貴方が他の人だと目の前で見せつけられる事も...無かった。


...ダメだな、柊の事は忘れたつもりだったのに。


どうしてこんなにも苦しいのだろうか?






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