あの日あの時...あの場所で






フルーツゼリーはとても美味しくて、実は二個も食べちゃった。


しかも、こんな時間に.....。

太るな、確実に。


身長が低い分、体重には気を付けないといけないんだけどね。

ま、今日だけは許してもらおう。




「瑠樹...」

湯気の立つカップを手に持ったままこちらを見た咲留。

対面に座ってるから、視線を避けようもない。


ま、元々、避けるつもりもないけど。


「ん?何?」

スプーンを銜えたまま咲留を見る。


「今日は...会ったんだろ?」

誰だか聞かなくても分かる。


「...あ、うん。驚いた」

手に持っていたスプーンとゼリーのカップをテーブルに置くと、両手を膝に乗せた。



「ごめんな?俺が最初から言っておけば良かったな」

咲留は悪くないのに、そんな悲しそうな顔しないでよ。


「ううん、良いの」

偶然の出会いは誰にも止められなかった。


「俺の知ってる事を聞きたいか?」

こうやっていつも私に選択肢をくれるんだね。


「...うん、聞く」

聞かなきゃダメな気がするから。

膝に乗せた手をギュッと握った。




「分かった話す...あいつの事はずっと前から知ってた」

ゆっくりと話し出した咲留は困ったように眉を下げたままで。


「...あ、うん」


「瑠樹がアメリカに行って数ヵ月経った頃に、あいつは母親と一緒に西に移り住んだ。1度だけあいつから連絡が来た。今後瑠樹とは関われないと...」

そっか...咲留には話してたんだね。


「...だから、連絡取れなくなったんだね」

普通に笑おうとするのに、顔の神経が上手く反応してくれないよ。



「...理由を聞いても言わなかった。そのうち、俺とも連絡を取らなくなって、あいつの悪名が聞こえてきた」

柊の悪名...ズキンズキンと胸の奥が痛む。

「...うん」

咲留は私の様子を伺いながらも、話を続ける。


「冷酷で女を食い散らかし、その上死に急ぐ戦い方をするって有名になった。俺は信じられなく一度だけ西へとあいつに会いに行った。だけど、そこにはもう俺の知るあいつは居なくて。引っ越して数ヵ月で別人に変わってやがった」

咲留は悔しそうに奥歯を噛み締めた。


咲留も柊の事は可愛がってたもんね。



別人...確かに今日出会った柊は違う人みたいだった。


全てを諦めた様な冷たい瞳をしていた。

そして、妖艶さを身に纏って冷たい色をしてた気がする。





< 112 / 445 >

この作品をシェア

pagetop