あの日あの時...あの場所で
「あんな柊を見て、瑠樹には話せなかった。だから、瑠樹が聞いてこないのを良いことに俺は口をつぐんだ。千景にも知らない振りをしてくれって頼んだ、ごめんな」
「ううん、良いの」
私は首を左右に振る。
咲留は私の事を思って言わなかったんだもん。
責めたりするわけないし。
「今日ももしかしたらって、可能性もあったのに...止めてりゃ良かったな」
「ううん、違うよ。今日止めたとしてもいつか会ってたと思う。だって、隣街だよ?それに、豪達とも揉めてる相手だし。会う機会は増えるのは必然だったんだと思う」
そう、いつかは会う運命。
二人の糸は繋がり直すことはないだろうけど...。
豪のそばに居る以上、多かれ少なかれ関わるしか無かったんだよ。
そうは思うのに...どうしてこんなに苦しいんだろうね?
柊....。
柊...この再会は何を意味するのかな?
「瑠樹、ごめんな。早く言ってやれなくて」
「だから、もう良いんだってば」
咲留にそんな苦しい顔してほしくないよ。
「...でもよ。俺が言う勇気があれば、瑠樹もキッパリとあいつの事を振りきれてただろ」
咲留は私の中にまだ柊が残ってるのを....分かってるんだね。
「なに言ってんの。もう吹っ切れてるし。三年だよ?もう三年近く経ってるのに、いつまでもウジウジしてないし」
どうか私の嘘に騙されて。
「なら良いけど。心配でしかたねぇよ」
伸びてきた咲留の大きな手が私の頭を優しく撫でた。
「大丈夫よ。それにもう会うこともないし。柊は西で、私は南の人間だもん。あのスーパーにも近付かないし」
そう、もう会わなければこの思いは消えてくれる。
モヤモヤとするこんな気持ち...要らないんだ。
女ったらしの柊になんて掴まってやんない。
私は柊なんて好きじゃない。
自分に言い聞かせる。
きちんとした別れをしていないから、ズルズルと心に残っちゃっただけ。
それに、柊は私の事なんて忘れて遊んでたし。
他の女を散々抱いた男に、今さら何も求めたりしない。
あんな風に私以外が触れたのに.....。
あぁ~もうなに!これじゃ嫉妬してるみたいじゃん。
違う違う、私は柊なんて好きじゃない。