あの日あの時...あの場所で
「姫、戻るの?」
「瑠樹さん、ついていこうか?」
「足元気を付けて」
海水浴場から真っ直ぐに続く道を、別荘へと向かう私を見つけた王凛のメンバーが口々に声をかけてくれる。
「大丈夫、ありがと~」
と手を振りながら歩く。
皆、凄く親切で優しい。
最近は、豪や咲留の事があるからだけじゃなく、私個人として親しくしてくれる。
気がつけば『姫』だなんて呼ばれるようになってた。
姫がどこから来た名称かは分からないけど、皆が親しみを込めて呼んでくれるから、あえて訂正はしない。
名前を知ってる人も知らない人も、笑顔をくれるんだ。
豪の仕切る王凛高校は素敵な所だと思う。
皆、仲良しで団結力もあって、私は好きだ。
他の三校がどんな所かは知らないけど、私にとったら王凛が一番だと言える。
ギラギラと照り付ける太陽から逃げるように、少し足早に向かう。
日焼け止めは塗ってるけど、肌がぴりぴりする。
ヤバイなぁ。
シャワーの温度低くしないと沁みちゃうなぁ。
アフターケアのクリーム塗らないと。
別荘まで続く防風林の並木道。
太陽を遮る影が出来た事で、心持ち涼しくなる。
この辺りになると、王凛のメンバーも居なくて。
何となく振り返ったら、夏樹がこちらを見て手を振ってくれてた。
きっと、見えなくなるまで見てるつもりだよね?
後5メーターも歩けば別荘だって言うの。
後少しで別荘の入り口って言う辺りで、突然吹いてきた強い風に麦わら帽子が空を舞った。
「きゃっ...」
ふわりと浮いた帽子は地面に落ちるとコロコロと転がる。
慌てて拾おうと手を伸ばすも間に合わなくて。
「んもう、こんな時に」
と文句の一つも言ってみる。
駆け足で近付いて後少しって所で伸ばした手は、覆い被さった影に警戒して引っ込めた。
影を作った人は躊躇なく私の麦わら帽子を拾った。
えっ?誰?
警戒色を強めて体を引き起こして、少し後ろに下がった。
「...誰?」
明らかにヤンキーチックな彼は怪しい。
だって、この道は私達が泊まってる別荘にしか繋がってない。
しかも、別荘はすぐ目の前。
用もない人はここに来るはずは無いんだ。
どう考えても、防風林の方から来たよね、この人。
怪しすぎる。
夏樹からはもう見えない場所だし。
どうしたものか?