あの日あの時...あの場所で
「....覚えてないかな?昨日、キングと一緒に居たんだけど?」
後頭部を掻きむしりながら、期待するような瞳を向けられた。
「...キング?」
一瞬誰の事か分からずに首を傾けた。
「そっか、柊って言った方が分かる?」
彼の口にした名前に心臓が跳ね上がった。
歪な思いが沸き上がる。
たけど、目の前の彼に気付かれないように平常心を保った。
「...柊のお友達?」
頭の中で必死に探した言葉は、こんな陳腐なモノで。
「そっ、親友」
悪戯っ子みたいに微笑んだ彼を色のない瞳で見つめた。
柊の親友?
昨日の記憶を辿る。
.....柊の腕に絡み付く女の子と、確かもう一人...居た。
ズキンズキンと痛む頭は、思い出すことを拒んでる。
胸が締め付けられる様な感覚に苛まれて、呼吸がしずらくなる。
「...どうかした?」
戸惑うように私の瞳を覗き込む彼。
「いえ...なんでもないわ」
小さく深呼吸して乱れた呼吸を整えた。
「あ...ごめん。自己紹介忘れた。俺は小西圭吾よろしくね?」
小西圭吾....それが柊の友達の名前だった。
「私は瑠樹よ」
一応自己紹介を返した。
そこはほら礼儀だし。
「よろしくね?瑠樹ちゃん」
そう言って伸ばされた手は掴めなかった。
「よろしくするつもりはないわ」
だって、圭吾は豪の敵だから。
豪に守られてる私がその敵と仲良くなる訳にはいかない。
それに...圭吾は柊に繋がってるもの。
私はもう会わないと決めたから、柊に繋がる圭吾は受け入れられない。
俯いて下唇を噛み締めた。
私が今、対峙してる相手は敵だ。
大切にしてくれる豪や皆を私は裏切りたくない。