あの日あの時...あの場所で
砂利を踏み鳴らすように走ってくる足音が聞こえた。
圭吾と一緒に顔をそちらに向ければ、険しい表情をした豪が真っ直ぐにこちらに向かって来ていて。
その後ろには夏樹や他のメンバーも数人いた、
「あっちゃ~もうタイムリミットか、早すぎでしょ」
豪達を見た圭吾は明らかに落胆している。
「もう、行った方が良いわ」
豪達がここに来る前に圭吾は消えた方が良い。
「そうだね?名残惜しいけどそうする。瑠樹ちゃん、これを」
私の手を取って、掌の中に折り畳んだ紙を置くと軽くそれを握らせた。
「...何なの、これ?」
手の中でカサカサする紙。
「俺の連絡先。どうしても...どうしても柊の事で話したい事があるんだ」
チラチラ豪達に視線を向けながら必死に訴えてくる圭吾。
「.....」
今更、私はなんと答えれば良いのだろうか?
「お願い、柊を助けたいんだ。だから連絡して。どうしても、君に伝えなきゃいけない事があるんだ」
圭吾の意味深な言葉に困惑する。
「瑠樹!」
「瑠樹さん!」
豪達は、もうすぐそこまで来てる。
「早く行って」
私は空いた手で圭吾を防風林の方へと押しやる。
「待ってる。必ず連絡ちょうだい。君の知らない真実を俺が教えてあげるから...」
圭吾は早口でそう言うと、私に背を向けて防風林の林の中へと走り去っていった。
....私の知らない真実。
いったい、圭吾は何を知ってると言うの?
連絡なんて出来ない。
そう思うのに、手の中にある紙を握り潰す事なんて出来なくて。
「瑠樹大丈夫?何もされてねぇか?」
私の前まで走った来た豪が私の肩を掴んで顔を覗き込んでくる。
「あ...うん、道を聞かれただけよ」
ごめん、豪、嘘ついちゃって。
どうしても、圭吾の事を話す気にはならなかったんだ。
「そうか...何もねぇならいい」
何か言いたげな豪だったけど、何かを聞くことはなかった。
「追え」
豪は一緒に来たメンバーに顎で指示を出す。
「「分かりました」」
頷いた数人が、圭吾を追いかけるように防風林の中へと向かった。
どうか、圭吾が捕まりませんように。
なぜかそう思った。
「瑠樹、もう一人で行動すんな」
豪は少し怒ってて。
「あ...うん、ごめん」
豪を見上げて謝った。
肩を掴まれた手から伝わる震えが、豪が本気で心配してくれてた事を教えてくれる。
ごめんね?豪。