あの日あの時...あの場所で
「瑠樹、楽しんでこい」
ゆるりと口角を上げた豪。
「うん、行ってくるね」
フフフと笑って空いてる方の手を振った。
「警護はもう準備出来ていますので、気にせずにカフェに向かってください。当たり障りのない距離で警護をするように伝えてありますので」
そう言って人差し指の腹で眼鏡のブリッジを押し上げた夏樹の手にはスマホ。
私達が話してる間にメールで警護の準備を整えてくれたらしい。
沼
ほんと、良く出来た男だ。
「うん、ありがと、夏樹。いってきます」
笑顔で頷いて手を振った。
「じゃ、今度こそ行こう」
桃子が腕を組んだままの私を連れて歩き出す。
「いやん、桃子ばっかり狡い。私も瑠樹と腕組んで歩きたい」
そう言いながら、私のもう片方の腕を掴もうとした楓は、
「両腕掴まれちゃ瑠樹が歩きにくいでしょうが!」
と梅に叱責を受ける。
「えぇ~だってぇ」
と唇を尖らせる楓。
「だってじゃないわよ。だいたい囚われた宇宙人じゃるまいし、両腕を取られる瑠樹の事考えなさいよね」
ほら行くわよ、拗ねる楓に顎で歩くように促した梅は男前だ。
ってか、囚われた宇宙人って....ククク。
面白すぎるから。
目に浮かぶのは小さい頃に見たUFO特集で、両手を掴まれて間に挟まれた不格好な宇宙人の姿。
「ダメ。面白すぎる...ククク...ハハハ」
教室のドアを抜けた辺りで爆笑してしまった。
だって、あの梅が真面目な顔で囚われた宇宙人とか言うんだよ?
面白くない訳がない。
「...る、瑠樹が爆笑してる」
桃子が驚いたように目を見開く。
「いやいや、私も笑うし」
「だって、いつもは物静かに笑ってるもん」
「あ...そう言われたら爆笑はあんまりしないけども」
「瑠樹の本物の笑顔見た気がする」
桃子が凄く嬉しそうだ。
「だってさ。あのクール女子の梅が囚われた宇宙人とか、真顔で言うんだよ?笑うしかないでしょ?」
と爆笑した理由を説明してみると、
「あ...確かに、面白いね」
桃子まで爆笑し始めた。
「二人とも笑いすぎよ。周りの目を少しは気にしなさいよ」
爆笑の原因を作った梅はそう言って至って冷静に、辺りを見渡す。
あらら、めっちゃ見られてるね?
奇妙なモノでも見る目で、見られてた。