あの日あの時...あの場所で
「あ~楽しかった。豪、連れてきてくれてありがとう」
お土産に買って貰った牛のヌイグルミを両手で抱き締めながら隣を歩く豪を見た。
「ああ」
素っ気ない返事をした豪だったけど、口角はしっかりと上がっていて、それを見た私はフフフと笑った。
乳絞りをして、パン作りもして、ちょっとしたアトラクションも体験した。
あ、もちろん乗馬も忘れずにしたよ。
私があまりにも上手く乗るものだから驚きはしたけど、豪も上手に乗っていたので、大したインパクトを与えられなかったけどね。
ま、楽しかったので良しとしよう。
それに、皆へのお土産も沢山買えたしね。
因みにお土産の袋は豪がもってくれてたりする。
隣を見上げる。
豪はやっぱり優しいと思う。
ギラギラとしていた太陽は、いつの間にか夕日に変わって私達の背中を朱色に染める。
暑さは幾分が和らいでいて。
帰りの足取りも軽い。
そして、私の気持ちも軽い。
色々とモヤモヤしてた気持ちが随分と和らいでた。
単純だと言われるかもしれないけど、体を動かして楽しんだことで私が私に戻った気がする。
それまでの私はマイナスの空気に飲まれていたからね。
雄大な自然と豪のお陰で、本来の私に戻ったと思う。
ウジウジ考えるなんて私らしくないよね。
柊の事も関わり合う運命ならば、抗わずに受け入れれば良いんじゃないのか?と思えるようにさえなった。
もちろん、豪達を裏切る事はしたくない。
だから、私から彼に会いには行かない。
だけど、出会ってしまう運命なんだったら、逃げずに立ち向かおうと思う。
逃げからは...きっと何も生まれない。
そして、前へと進むために逃げちゃいけないんだと思うんだ。
「瑠樹、一人で抱えんなよ?」
前を向いたまま豪が言う。
「...うん、ありがと」
豪を見上げて微笑んだ。
豪は私が可笑しい事に気付いてくれてたんだよね。
だから、塞ぎ混む私を遊びに誘ってくれた。
「お前はそうやって笑ってろ」
荷物を持ってない方の手で頭をワシャワシャと撫でられる。
豪の手はいつも暖かいね。