あの日あの時...あの場所で









「今日は、食事の後、屋敷に来てくれるんだよな?」

ニコニコ笑顔を向けてくるパパ。


「うん、そのつもり」

その為に少し大きい目の鞄にお泊まりセットを入れて来たもん。


パパがイタリアで見つけたって言うママの描いた絵を見せてもらう事になってるしね。


ママは私が生まれるまで画家をやっていて、その時に書いた絵が幾つか世の中に出回っているんだ。

パパはそれを見つけては自分のコレクションとして収集してる。

それは、パパなりのママへの愛情じゃないのかと思う。



「だよな?だったら、今日は長く一緒に居られるね」

そんな幸せそうに微笑まれたら、絵を見たら帰るなんて言えないしね。


パパはパパなりに、私との距離を縮めようと頑張ってくれてるし。



「うん、色々な話をしよう」

親に対しての甘え方を知らないから、少し戸惑ってしまうけど、私もパパと距離を縮めたいと思ってるから。



「咲留には、瑠樹が来ることは言ってないんだ」

ニシシと悪戯に笑うパパ。


「後で知った怒るよ」

だって、シスコン咲留だし。


「だって、いつもあいつは瑠樹と一緒に居るじゃないか。またには私が瑠樹を独り占めしても許されるはずだ」

胸を張って言うことでもないと思うけど。


「そんなこと言って知りませんよ。咲留さんの逆鱗に触れても」

助手席の桜井さんは、言葉とは裏腹に楽しそうな顔をしていた。



咲留とパパの攻防を見るのが、この人は結構好きらしい。


本気の親子喧嘩は見物だとこの間笑顔で教えてくれたんだ。


いやいや、本気の親子喧嘩ってなに?



「俺もまだまだ咲留には負けないぞ」

拳を握りしめて闘志を燃やすパパに敢えてなにも言わなかった。


現役の咲留と渡り合ってる辺りは凄いと思うけど、そろそろ自分の年も考えて無理は止めて欲しいと思う。


忙しさの中でも筋トレを忘れないパパは、まだまだ若い気でいるのだろう。


因みに私はまだ二人の喧嘩を見た事はない。


二人とも、私の前じゃ温厚なふりしてるからね。








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