あの日あの時...あの場所で






もう良いや...行こう。


咲留を相手にしてる場合じゃない。



「もう行くね」

私が目指すのは海岸の少し先に見える灯台。


「あ、お、おう。ここで待ってるな」

なんて言うので、


「ううん、帰ってて。帰りは迎え呼ぶし」

と全力でお断りする。


「えっ?俺、暇だから待ってるぞ」

いやいや、だから帰ってってば。

ほんと、お願いします。



「あ、ううん、いいから。どのぐらい時間かかるか分かんないしね」

顔をひきつらせながらも微笑む。


「本当に?」

心配そうに見てくる咲留。


「ん、本当に」

帰ってくれ。


真剣な表情で見つめ合う。



「わ、分かった。じゃあ帰るな」

と言った咲留に、心の中でガッツポーズした。


「あ、うん。送ってくれてありがとうね」

満面の笑みが漏れる。

もう乗らなくて良いと思うと自然に出るのよ。



「何かあったら直ぐに連絡しろよ。直ぐに飛んでくるから」

心配そうに私の顔を見る咲留に、


「うん、分かった」

と素直に頷く。



後ろ髪を引かれながらも運転席に乗り込んだ咲留。


「本当に本当に大丈夫か?」

開けた窓から顔を覗かせて私を見る。


「うん、問題ないよ」

だから、帰っちゃって。


「じゃあ行くな?」

「うん、安全運転で帰ってね」

「おう、もちろんだ」

「...バイバイ、咲留」

一抹の不安を覚えながら手を振る。


「じゃあな。気を付けろよ」

お前がな!と言いそうになって、慌てて口を閉じる。



閉まっていく窓。

ほっと安堵の息をつく。



キュリリリ~と鳴ったタイヤ。


ああ、そんなにアクセルを踏まないで。


来た時と同じスピードで遠ざかっていくランボルギーニを見ながら思う。


無事にどうか、帰ってくれますように!と。



そして私は決意を固くする。


パパに警告して、あの車を咲留から取り上げてもらおうと。

なにか起こしてからでは遅いから。


初めて知った咲留がスピード狂だったという事実に大きな溜め息をついて、海岸を歩き出す。



幸か不幸か、咲留のおかげで変な緊張は無くなったし。

行きましょうかね。



灯台を目指して歩き出す。

さぁ、真実に向き合う時間だ。








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