あの日あの時...あの場所で







視線の先に見える岬の灯台を目指して海岸線を歩き出す。


夏の海岸は、この時間でも人で賑わっていて。


キャッキャと戯れる人達を横目に見る。


皆、楽しそうで幸せそうで羨ましい。


笑顔で戯れる人達が悩みなんてないように思えて、そんなはずはないのにね?


私だけが不幸の中に居るような、そんな被害妄想。


本当、バカみたいよね?

だけど、逃げ出したいと思ってしまうんだよね。

真実を知ることが怖いと思うから。


止まりそうになる足を必死に前へと出して、灯台への距離を縮めていく。



湾曲した海岸線の少し向こう、周りより突起した部分にそびえ立った白い灯台。

そこに知りたかった真実が待ってる。


高鳴る鼓動は止められない。

何度も小さな深呼吸を繰り返す。


海から吹き上げてくる潮風に揺れる髪を手で押さえた。



進むにつれて少なくなる人。


まだ光を放たない夕暮れの灯台に用事のある人なんていやしないんだろう。


真っ直ぐに灯台を目指して歩く私を不思議そうに見る人達を通りすぎる。



って言うか、時間大丈夫かな?


ポケットから取り出したスマホで時間を確認すれば、待ち合わせよりは20分ほど早い。


咲留の運転で悪くなってた気分も海岸を歩いた事ですっかり元に戻ってきた。


時間に余裕があるんなら...と足取りをゆっくりに変える。

こんな風に海岸を歩く事なんて滅多にないから、少し楽しもうと思う。


思い詰めてばかりじゃしんどいしね。


空っぽの頭で、全てを受け入れるのも悪くない。


ウジウジなんて私らしくないからね。










海岸の先のゆっくりと歩いてたどり着いた灯台は思っていたよりも大きくて。

この灯台はいつもこの場所で海の安全を見守っているんだね。


灯台の側まで行って見上げた。


白くて丸い円筒の先には、遠くまで光を届けるための大きなライトが2つついていて。


あれがきっとクルクル回りながら光ってるんだよね?


「凄いなぁ」

思わず漏れでた声。


「何が凄いの?」

背後から急に聞こえた声に驚いて、警戒を強めて振り返った。


近付いてくる気配に気付けなかったのは失態だ。



「...あ..」

「ごめんね?驚かしちゃった?」

エヘヘと笑ったのは圭吾。


驚かしちゃったじゃないし。

気配も足音も消してくるなんて質悪い。









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