あの日あの時...あの場所で
圭吾に対して警戒を解かないまま、怪訝そうに彼を見る。
「本当ごめん。そんな警戒しないで」
圭吾は眉を下げて私を見ていて。
「忍び足とか止めてよね」
急に声なんて掛けられると心臓に悪いし。
「いやぁ、ちょっと悪戯心が...」
アハハと後頭部に手を当てて笑う圭吾を睨み付けた。
何が悪戯心だ。
「.....」
「あ~そんな怪しむような視線を向けないでよ」
いやいや、貴方が悪いのよ。
はぁ...この人やっぱり疲れるタイプの人だ。
ま、おかげでさっきまでの緊張は解けたけどね。
「早いのね?」
待ち合わせの時間にはまだ早い。
「うん。レディーを待たせるのは趣味じゃないからね。でも、瑠樹ちゃんの方が少し早かったね」
「あ...うん。それは諸事情があって...」
スピード狂の咲留が猛スピードで走ったせいだ。
言葉を濁した私はきっと身内の恥を知られたくないんだと思う。
「そう言えば、ここに向かう途中ですれ違った車が危ない運転してたよ」
と言った圭吾にドキッとした。
...ま、さかね?
「へ、へぇ、そうなんだ」
「うん、そうそう。赤いランボルギーニなんだけどね。無茶苦茶飛ばしててさ」
と説明してくれた圭吾に顔を強張らせた。
ああ、うちのバカだ。
絶対にパパに言いつけてやる。
「こ、怖いね、そんな車」
握った拳をプルプルと震わせながらそう返した。
「だよねぇ。ま、俺もバイクでスピードは出すけどあそこまで無防備には運転出来ないなぁ」
「だ、だよね」
ああ、完全に顔ひきつってると思う。
「どうかした?知り合いだったりする?」
う、うぅ、鋭いな。
「あ、ううん。違う違う。想像したら怖くなったの」
無理矢理っぽい言い訳をしてみる。
「うん、本当に自分が助手席に乗ってるのを想像すると怖いね」
さっきまで乗ってましたよ、とも言えずに苦笑いした。
「少し歩こうか」
もう咲留の話はお腹一杯だ。
「うん、そうしようか」
圭吾の返事にどちらからともなく並んで歩き出す。