あの日あの時...あの場所で
「連絡、ありがとうね」
隣を歩く圭吾からの声。
「あ、ううん」
圭吾が連絡を取ろうとしてくれたから私はここに居るだけ。
「突然、晴美が訪ねて驚いたでしょ?」
「あ...小西さんね?インパクトの強い人でちょっとビックリした」
フフフと笑う。
あの人のキャラと登場はかなり凄かった。
「あ~あいつね。キャラはかなり凄いからね。ま、悪い奴じゃ無いんだけど」
イクッと口角を上げた圭吾。
その顔はどことなく小西さんに似ていた。
「なんだか、好かれたみたいです」
と肩を竦めた。
圭吾を抜きで仲良くしたいなんて言ってくれてたしね。
「そうみたいだね。瑠樹ちゃんのこと凄く誉めてたよ。悲しませたりしたらシバくとか言われたし」
参ったよとか言いながら頭をかいた圭吾。
「フフフ...シバかれちゃうのね」
小西さんなら言いそうだ、と先日会った彼女を思い出す。
「そうそう、だから俺は瑠樹ちゃんの敵に回ることはないからね」
と圭吾。
敵に回ることはない。
だけど、西と南、既に敵対関係にあるような気がする。
「.....」
思わず考え込んじゃう。
「狼王とキングが対立してる事は、瑠樹ちゃんには関係ないことだから気にしなくて良いよ。俺達男がくだらない陣地取りしてるだけだしね。その事に関しては瑠樹ちゃんは誰も敵でも味方でもないでしょ?」
ね?と私の心を読み取ったのか圭吾は笑ってくれた。
咲留と同じ様な事を言ってくれるんだね。
「あ...うん。でも、私はきっと豪に守られてるから...」
そんな簡単に割りきっちゃいけない気がするんだよね。
「守られてるだけで、狼王の女じゃないでしょ?」
「まぁ、うん」
「だったら、瑠樹ちゃんは誰にも縛られてないよ。だから、自由で良いんだよ」
本当に...そんな簡単で良いのかな?
そう思いながらも、今こうやって圭吾と会ってる時点で豪を裏切ってるんだよね。
「そこに、座ろう」
圭吾の指差す先には大きなテトラポットが並んでいた。
「...うん」
頷いて圭吾の後に続いた。
暮れかかる空は海の方からオレンジ色に染まり出す。
防波堤のテトラポットに二人で並んで座る。
海はザブンザブンと波を寄せる。
白く泡立つ波は出来ては直ぐに消えていく。