あの日あの時...あの場所で
絡み合う思い
「久しぶりぃ~瑠樹ちゃん」
教室に入った途端にそう言いながら飛び付いてきたのは楓。
「...っ、あっと」
反動で後ろに倒れそうになる。
「大丈夫か?」
そう言いながら肩を抱いて支えてくれるのは私の後ろに居た豪。
「んもう、ば楓。急に飛び付いたら瑠樹が怪我するでしょうが」
ツカツカと歩み寄ってきた梅は険しい顔で楓の頭を叩いてから、首根っこを掴んで私から引き剥がした。
「る、瑠樹ちゃん、ごめ~ん」
なんて言いながら教室の奥へと引きずられていく楓。
彼女は夏休みが終わってもテンションは落ちないままらしい。
部屋の奥で仁王立ちの梅に説教されて、シュンと落ち込む楓のシュールな姿が視界の端に見える。
「おはよう、瑠樹、森岡君」
私の側まで笑顔で歩いてきたのは桃子。
「ん、おはよう、桃子」
笑顔で挨拶を返した。
「...おう」
素っ気ない返事をしたのは豪。
「夏休みの宿題出来た?多すぎだよね」
なんて聞かれながら桃子と並んで歩き出す。
「一応ね、やったよ」
宿題だしね。
でも、特進クラスだからか量は半端なかったよ。
「良いなぁ。瑠樹は頭いいもんねぇ。私、数Ⅰの宿題の問題に引っ掛かっちゃってさ」
桃子は羨ましそうに私を見た後、ガクッと肩を落とした。
「あ、あれは少し難しかったね」
私も時間かかった。
夜叉の巣窟で、豪と一緒にやったんだよねぇ。
「だよねだよね。あれって無理だよぉ」
桃子、半泣きにならない!
「私も豪が居なかったら解けなかったかも」
ね?豪って少し後ろを歩く豪を振り返る。
「...そうでもねぇだろ」
もう、素っ気ないんだからぁ。
この夏に知ったのだけど、豪はかなり頭が良い。
色んな意味で天才肌だと思う。
「あ~ぁ、それって出来る人の言葉よね」
いつの間にか、楓の説教を終えた梅が側に戻ってきてた。
「だよねぇ。羨ましいなぁ」
桃子は本気で羨ましがってた。
「フフフ...豪、羨ましがられてるよ?」
と豪の顔を下から覗く。
「...フッ、くだらねぇ」
愛想のない返しだったけど、豪の耳が赤かった事を私は現実を知ってるよ。
ざわざわとする教室。
久しぶりの登校に生徒達は楽しげだった。
新鮮な気持ちで始まったのは二学期。
受験生にとっての正念場が始まったのだ。