あの日あの時...あの場所で
私達が席について少しした辺りでHR開始のチャイムが鳴り響いた。
奥野先生が出席簿片手に教室の入り口から入ってくる。
「おう、お前ら元気だったか?先生は夏を満喫したぞ」
彼は相変わらず元気らしい。
笑顔の奥野先生の顔は真っ黒に日焼けしてた。
本当に満喫したようだ。
「奥ちゃんおはよ」
「奥ちゃん、会いたかったよ」
「寂しかったよ、奥野先生」
クラスメイトは口々に奥野先生に声をかけていく。
何気に彼は生徒に好かれてる。
「おう!俺も寂しかったぞ、マイスチューデント」
どうして、片言の英語を使ったかな?
思わず発音の訂正をしたくなる。
ぼんやりと頬杖をついて二学期の予定や心構えを話す奥野先生を見つめる。
頭の中に入ってくる声は、もちろん右から左へと流れていく。
結局の所....私はあの日から動けてない。
圭吾と灯台で待ち合わせたあの日。
日が沈むまであの場所に居た私は色んな事を考えたはずなのに、何一つ行動に移せてなくて。
あの日、迎えの車を呼んで自宅マンションへ帰った後も、私は初めて知った事実を頭の中で整理出来ずにいたんだ。
後悔して、悩んで、泣いて。
そんな事を繰り返して、その日を終えた。
だけど、あの日から動くことも出来ないまま夏休みが終わった。
始業式を迎えた今日、私の置かれてる現状は何一つ変わってない。
圭吾からも連絡はない。
あの日、フェードアウトしていったままだ。
知りたくて仕方なかった真実を知ったと言うのに、私は手をこまねいてるだけだ。
柊の本当の思いを知ったと言うのに、私は彼に接触することすら出来てない。
圭吾から聞いた話が、もしかしたら嘘かも知れないと考えなかった事もない。
だけど、あんな嘘つくはずないよね。
圭吾は心の底から柊を慕ってるもん。
なのに、わざわざ危険を犯してまで南の狼姫なんて呼ばれてる私に接触なんてしてくるはずない。
どんなに考えても教えてもらった話は真実なんだ。
柊...貴方の優しさを忘れてた。
私を巻き込みたくないから離れたんだよね。
柊はいつだって優しかったもんね。
いつも私の事を一番に考えてくれてた。
どうして...どうして私は気付けなかったんだろうね。
本当、私...バカだね?