あの日あの時...あの場所で







「昼休みに迎えに来るから、ゆっくり寝てろ」

そう言いながらタオルケットを肩までかけてくれる豪。


「あ...うん、ごめんね」

申し訳無い気持ちで一杯になる。

だって、本当は具合なんて悪くない。


「ふっ...なにも悪くねぇのに、謝んな」

私の頭を優しく撫でてくれる手はやっぱり優しい。



「あらあら、噂は本当なのね。女嫌いの狼王でも狼姫には甘い顔を見せるのね。フフフ..はい、熱計ってね」

カーテンを開けて入ってきた保険医は豪を見てニヤニヤ笑うと、私に体温計を差し出してきた。


「あ...はい」

熱はないと思うけど、ここで断るのも変なので受け取る。


「ピピピッて鳴ったら教えてね。じゃ、フフフ」

私に優しい表情を向けた後、意味ありげに豪を見てカーテンの外へと出ていく保険医。

彼女はどうやらSッぽい。



「...チッ..うぜぇ」

カーテンの向こうを睨み付ける豪。


ここの先生で豪と対等に話すのは、奥野先生とあの保険医ぐらいじゃないかな?


他の先生達は、豪が怖いのかビビってるし。


それに豪もそんなに彼女を毛嫌いして無さそうだしね。

だから、なのか親近感が沸いた。



保険医から受け取った体温計を脇に挟み終えると豪を見た。


「フフフ...豪、もう教室戻って良いよ」

ここに長居しても暇だろうし。


「ああ。分かった。大人しく寝てろよ」

「ん。バイバイ」

豪に微笑んで、タオルケットから手首まで出して手を振った。


「おう」

軽く手を上げて微笑むと豪はカーテンをスライドさせて出ていった。







「あら、帰るの?」

カサカサと何かをメモする音と保険医の声が聞こえた。


「ああ、帰る。昼に来るから瑠樹を頼む」

豪の低い声。



「フフフ...えぇ、任せて。お姫様は丁重にもてなしておくわ」

楽しげな保険医の声に、


「余計な事すんなよ」

と釘を刺した豪に、保険医はますます楽しげに声を上げて笑う。


大きな舌打ちが聞こえた後、ドアの開閉の音がして足音が遠ざかった。


豪ったら、足音に苛立ちが現れてるし。



フフフと口角を上げた時、脇に挟んであった体温計がピピピと鳴った。





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