あの日あの時...あの場所で
体温計を取り出してみると、デジタルには37.5度と表示されていて。
あれ、少し熱があるんだ。
少し怠いとは思ってたけど、まさか熱があるとは思わなかった。
「さ~て、お熱はどうかな?」
カーテンをスライドさせて入ってきた保険医は満面の笑みで。
この人、美人なのにこのテンションが残念かも。
「少し有りました」
と体温計を差し出す。
「あらら本当ね。少し頭を冷やそうか。熱が上がってくる様ならお昼を食べた後に薬を飲む方が良いかもね」
体温計に表示されてる数字を見てから、私の額へと手を乗せた。
柔らかい手はひんやりと冷たくて気持ちいい。
思わず目を瞑った。
「本当可愛いわねぇ。森岡君達が躍起になって守るのも無理ないわね。私も貴女が好きになったわ」
なんて色っぽく言われて慌てて目を開けた。
「へっ?」
まさか、この人そっち系?
身の危険を凄く感じた。
「フフフ...そんな警戒しないでよ。可愛いモノは好きだけど。男の子の方が好きよ。だから、襲ったりしないわよ」
赤いルージュを塗った唇を三日月にすると色っぽい瞳を私に向けた。
「...そ、そうですか」
ほっと息をつく。
保健室で保険医に襲われちゃ身も蓋もないからね。
「あまり無駄話をしても体に悪いからもう寝なさい。水枕持ってくるね」
保険医は妖艶に微笑むと出ていった。
はぁ...熱があると分かった途端にしんどくなるなんて、私って子供だなぁ。
ここのところの寝不足も祟ってるのかも。
重い目蓋をゆっくりと閉じた。
とにかく今は眠ろう。
熱がある頭で考えても良いことなんて無いしね。
ボーッとする頭はだんだんと眠りに誘われる。
そして、保険医が水枕を持って再びやって来る頃には私の意識は夢の中へと落ちていた。
後頭部と額に冷たさを感じたのは、きっと夢じゃないと思う。