あの日あの時...あの場所で






「ったく、瑠樹は強情だよな?」

と豪は笑う。


「フフフ...そうかもね?」

私は私の目標に向かうだけ。


「フッ...行くぞ」

教科書を手に立ち上がった豪は、私へと手を伸ばす。


「うん、行こう」

私は手元にある自分の教科書を豪に手渡した。

次の授業は科学の実験で移動教室。


「これだけで良いのか?」

「うん、いつもありがと」

豪はいつも私の分の教科書まで持ってくれる。


自分で持てると言っても、転けたりしたら危ないからと奪われる。


なので、最近は迷わず渡すことにしてる。


立ち上がって豪と一緒にドアに向かって歩き出すと、梅達三人が駆け寄ってきた。


「瑠樹、一緒に移動しましょ」

「うん、梅、皆」

頷いた私の側に三人が集まると、豪は少し後ろに下がって私を見守るように歩く。


これがいつもの光景。

梅達との関係の事も考えて行動してくれる豪には頭が上がらないよ。




「ねぇねぇ、テスト勉強進んでる?」

と聞いてきたのは桃子。


「うん、やってるよ」

ここが一番の正念場だし。


「やっぱりなぁ、瑠樹は凄いね。それに比べて...楓は...」

私から自分の隣をお気楽に歩く楓へと哀れみの視線を向けた桃子。



「な、なによ!し、仕方ないじゃん。分かんないんだもん」

開き直って膨れっ面になる楓はサイドの髪を指でクルクルとし始める。


「バカ!開き直ってる場合じゃないでしょ」

梅はやれやれと肩を竦める。


楓は勉強が苦手で毎回幾つかの赤点を抱える。


桃子と梅が頑張って教えてるらしいけど、成長を見せないと二人はいつも嘆いてる。


「楓は何が分からないの?私で良かったら教えるよ?」

「や~ん!瑠樹ちゃん天使」

抱き付いてきた楓は、


「抱き付いてる場合じゃない。歩きながらとか危ないから止めなさい」

と私の隣を歩いてる梅に引き剥がされる。


「衝動を押さえられなかった」

梅に首根っこを掴まれたままの楓がニシシと笑う。


衝動って...なんですか?


「で、何が分からないの?」

もう一度聞いた私に、


「何が分からないのか、それすら分からない」

と胸を張った楓に驚きを隠せなくなった。


...楓、それ、かなり終わってるから。

うん、私、教える自信が無くなってきたかもしれない。




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