あの日あの時...あの場所で
「豪、授業始まるよ」
隣で眠る豪の肩を揺り起こす。
この光景はもう定番である。
誰に言われても起きなかった豪だけど、こうやって私が呼び掛けると起きてくれる。
「っん?...ああ。サンキュ」
眠気眼で私を捉えると、その大きな腕を伸ばしてきて私の頭を撫でた。
「ううん、一緒に授業受けよ」
と微笑めば、
「ああ」
と微笑み返してくれる。
う~んと両手を伸ばして伸びをする豪を横目に、私は机から教材を取り出した。
「今日ね?転校生来るんだって」
どんな子かな?ワクワクする。
女の子だったら、仲良くしたいなぁ。
「そうか」
もう、豪は興味無さそうだし。
「女の子だったら良いなぁ」
机に両手で頬杖をついて、まだ誰も居ない教壇を見つめる。
「男だったら面倒臭せぇな」
「へっ?そうなの?」
しかめっ面の豪に首を傾けた。
「お前に言い寄ってくる馬鹿じゃねぇと良いけどな」
「いやいや、そんなに私はモテないからね」
豪は欲目で私を美化しすぎだと思う。
「はぁ...分かってねぇ」
ダメだと首を振った豪は額に手を押し当てた。
ちゃんと分かってるし。
豪と柊は数少ない私を好きで居てくれる人達だよ。
...そんな二人にまだ答えを返せてない私は、狡いよね。
「瑠樹、俺は何時までだって待つ。だから、んな顔するな」
豪は私の頭をポンポンとする。
「...豪」
ごめんね?ここで謝るのは違うと思うから口にしない。
だけど、私は豪に甘えすぎてるよね。
豪の優しさを手放せない私は情けないね。
柊を好きだと思うのに、豪と決別する勇気も無いんだ。
だから、どっち付かずのまま時間を過ごしてしまう。
私の本当の気持ちはどこに向かってるのかな?
自分自身分からないんだよ。