あの日あの時...あの場所で
「おはよう、ほら、席つけよぉ」
奥ちゃんが挨拶しながら教室に入ってくる。
何時もならキチンと閉めるドアが開いてるのはその向こうに転校生が居るからだろう。
立ち上がって騒いでいた皆は奥ちゃんの登場で、ガタガタと音を立てながらも席に着く。
「よ~し。今日はホームルームの前に転校生を紹介するぞぉ!」
奥ちゃんの言葉に、
「「「「「おぉ~!」」」」」
とクラスの男子が盛り上がる。
もちろん、豪は除いてだけど。
「女の子?」
と男子が聞けば、
「男の子だよね?」
と女子が聞く。
ワイワイガヤガヤする教室は、最高潮に盛り上がってる。
私が転校してきた時もこんなだったのかな?なんて思いながら、教壇の前で苦笑いする奥ちゃんを見つめた。
「うっせぇ」
眉間にシワを寄せる豪は、やっぱり転校生には興味がない様子で。
肩肘をついて頬を支えて、教壇とは違う方向へと目を向けていた。
「まぁ、お前ら静まれよ。入る前からこんなに盛り上がられたら転校生も入って来にくいだろうがよ」
奥ちゃんの言葉に、クラスメートは落ち着きを取り戻す。
確かにこの空気は入りにくいよね。
「おい、転校生、入ってこい」
奥ちゃんがドアの向こうに声をかける。
「...はい」
と聞こえた声に、転校生が女子だと判明する。
そうなると男子は色めき立つ。
女子はあからさまに落胆してて、その態度の違いに笑みが漏れた。
開けっぱなしのドアから入ってきたのはショートカットの美女。
スラッと背が高くてとても綺麗な女の子に、男子が黄色い悲鳴を上げた。
「...綺麗な女の子」
本当に、綺麗なんだよ。
お姉さんみたいなその子は、私とはまるで正反対の容姿をしていて。
優雅に教壇に立つ奥ちゃんの横まで歩み寄った彼女は少し照れ臭そうに微笑んだ。
その表情に、男子も女子も息を飲む。
だけど、そんな中、豪だけは未だに転校生に視線を向けない。
気にならないのかな?
「ね、豪、転校生凄く綺麗だよ」
と豪の制服をツンツンと引っ張った。
「瑠樹以外はどうでも良い」
私の方を見て、豪らしい返事をくれた。
真っ赤になる頬。
最近、豪はストレートに表現してくるので困る。