あの日あの時...あの場所で
「...瑠樹、どうした?」
心配そうな声と駆け寄ってくる足音に顔を上げた。
心配そうな顔をした柊が公園の入り口から、ベンチに座る私に向かって走ってくる。
いつ...どうやって来たのか覚えてないけど、私は屋敷の近くのあの公園に居た。
あの子からの電話の後、なにも持たずにマンションを飛び出したのは覚えてる。
だけど、フラフラと歩きながら、気がついたらここに居た。
柊との思い出が詰まったこの公園に。
「...瑠樹、こんな所で一人で泣いてんじゃねぇ」
近くまで来た柊は、そう言うと私の前にしゃがみこんで大きな腕で私を抱き締めた。
「...柊」
あぁ、私、泣いてたんだ。
濡れた頬にそっと手を当てる。
「ばか野郎。具合悪くて家で寝てたんじゃねぇのかよ」
柊は眉を寄せて私を見下ろす。
どうして、柊が知ってるんだろう?
「...ん、分かんない」
分かんない事ばっかりだ。
泣いてた理由も、ここに来た理由も、柊が私の事を知ってた理由も。
「探した。必死で探したんだぞ。頼むから居なくなんな。俺はお前が居ねぇと困る」
苦しそうにそう吐き出した柊に申し訳ない気持ちになった。
だけど、引っ掛かるフレーズに首を傾げる。
「..探したの?」
どうして、柊が私を。
「咲留さんからお前が居なくなったって連絡来たんだ。だから、焦って探した」
「咲留がどうして?」
どうして?咲留は大学に行ったじゃん。
私が居ない事を知ってるはず無い。
それに、どうして柊の連絡先とか知ってるの?
色んな疑問がグルグルと頭を回る。
「...瑠樹、お前...何時だと思ってるんだ?」
そう言った柊が凄く苦しそうで。
「...えっ?まだお昼前でしょ?」
「...チッ..もう夕方だ。周りを見てみろ」
柊の言葉に周囲に目を向ければ、辺りは朱色に染まろうとして居た。
「...そんな」
私が来たのはいつなの?
時間が経つのも分からないままにここで過ごしてただなんて。
「とにかく、行くぞ。皆心配してる」
柊はそう言うと私を抱き上げた。
「...あ、ちょ、ちょっと」
と焦って交互しても、
「大人しくしてやがれ」
と睨まれた。
柊は私を抱き上げたまま、さっき入っていた公園の入り口に向かって歩き始めた。